もじゃもじゃと手を動かす

日々の思考のゴミ捨て場

ミネラルウォーターに味はしない

先輩に好きな人ができた。


私のいちばん大好きな、そして尊敬している先輩は

いつも笑顔が明るくて、何に対しても真面目だし、他人に向かってあからさまな差別や嫉妬をしない、素敵なひと。


一緒にご飯に行くたびに私はその先輩にどんどん懐いていって、休日に洋服を買いに行ったり、お泊まり会をしたり、旅行に行ったりした。ほとんどのイベントは私が誘っていたのだけれど、嫌な顔1つせずに、先輩は予定をあわせてくれた。


この間も、そんな風にして私が誘い、先輩を家に泊めた。

明け方まで呑んだくれてしゃべり倒した、その最後の最後に、先輩に好きな人がいるとわかった。


いまよく一緒に仕事をしている人で、もう2人で食事に行ったり、ドライブにも行っているらしい。


見せてもらった写真にうつっていた男の人は、ひょろっとしていて、別段、とびきり格好いい訳でもなかった。話を聞く限り恋愛経験が多いわけでもなさそうだったし、むしろ女性の扱いになれていなさそうだった。正直、この人のどこに惚れたんだろうと思った。

それでも先輩はもう、その人が何をしてても格好良いと思ってしまうらしくて、ダサいシャツを着てても、寝癖がほったらかしでも、たまにかけるメガネが汚れてても、全然構わないのだと言う。

文字通り恋する乙女になっていた彼女は、静まらない気持ちを抑えたいのと、それでも会うたびときめいてしまう衝動に苛まれていて、幸せな葛藤の最中にいるようだった。


素敵ですねぇ、とか、もうこっちから告白しちゃったらどうですか、とか、当たり障りのない恋バナをしながら、思考はひとつのどうしようもない疑問に収斂していく。



どうしてそんなに人を好きになれるんだろう。何がそんなに楽しくて好きになっちゃうんだろう。



好きな友だちの恋バナを聞くのは、楽しいけど、ちょっとツラい。

それは、私と彼女の嗜好が、突き詰めれば決定的に違うってことを、自覚させられるからだと思う。

私たちは趣味や価値観や、笑いのツボが同じで、だから仲良くなったはずだった。

多分この後もずっと仲良しで、変わらないことだと思ってたんだけど、

何回見ても、いくら話を聞いても、

彼女の好きな人に私が共感できないということは、私と彼女の価値観はそこで違うってことなんじゃないか。

私と彼女はつまるところ、まったくの別人なのだ。


当たり前だけど。でもなんだか少しさみしい。


素直に、自分の好きな友人に好きな人ができたことを喜べればよかった。

私の好きな人が私を好きじゃなくても、好きな人が幸せならそれでいいんですって、カードキャプターさくらに出てくる知世ちゃんみたいに、そんなふうに綺麗なことを思えれば良かったのに。


しょうもない独占欲をほったらかしにできない私は、みみっちい嫉妬をうだうだと転がし続けながら、喉が渇いてミネラルウォーターをぐびぐび飲んだ。

先輩にも渡したら、私もちょうど喉が渇いてたの、と言って

先輩もミネラルウォーターを飲んだ。


もう寝ましょうか、と言って私は電気を消した。

私は味のしない水を飲んだけど、彼女にとっては別の味がしてるのかもしれないな、と思いながら。